やわらかい

日々、いろいろ、ほそぼそ

呪いと悪夢の話

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タイトルがあれなのと、中身もちょっとあれなので、最近食べたすんげえ美味しい砂肝刺のせめて景気のいい肉にしておくか…の写真です。

眠れないのでちょっと思考を吐き出しておこうかと夜中に書き始めました。

 

この日記でも度々触れているように、私は不眠症、不安障害という病気を患っている。

実家に帰ってきてから半年、毎月通院して薬をいろいろ変えて試してみているのだが、結局現在は依存性の一番高い、電源が落ちるような薬を使っている。この薬を使うと、眠れはするのだが、眠気を引きずることがある。半錠にして飲むこともある。

結局スタートの薬に戻ったこともあって、この前の通院で先生に「お役に立たずすみません…」と言われてしまったけれど、きちんと説明をしてくれるし、一緒にどうするかを考えてくれるので、そんなこと言わんでもええのに…アザス…になったところだ。

 

薬は様々で色々試した中に、中途覚醒せず緩やかに眠れて、かつ依存性の低い薬というものがあった。ただ、副作用に「悪夢」というオプションがついていて、そんなアホな〜と思っていた。が、薬のことをよく知っている人は正しい。悪夢をほぼ毎日見た。

大きなキリンみたいな生き物に食べられる夢、苦手な大きな蛙がぎっしり詰まった水槽をプレゼントされる夢、父親が上沼恵美子と腕を組む夢。個人的に最後の上沼恵美子と父親が肩を組む夢は面白いところもあったのだが、殺されそうになったり、何かに追いかけられていたり、必ずこなさなければならないミッションがあったり。何回か飛び起きたこともある。

 

でも、私にはもっと悪夢と呼ぶに相応しい夢を見ることがある。それも定期的に。薬を飲んでいようが飲んでいなかろうが、関係ない。

必ず月に一度か二度は見る。

 

その夢には必ずある人物が出てくる。

私が大学生の頃に付き合っていた恋人である。

付き合っていた、なのですでに過去形であるし、結果はお察しの通りだ。しかし、その「別れ方」や「付き合う」といった中で起きたことは、少しばかり普通とは違っていた。

 

細かい部分は割愛する。

とにかく、私は自分の家庭のことや自分のことを曝け出せる相手ができたこと。それに理解をしてくれること、自分が受け入れられて求められていること。その当時、家の中がガタガタだったこともあり、私にとって彼はおそらく、失ってはならない人だった。

でもそれは、あくまで、精神的な部分。私の弱いところを満たす水のような存在。確かに好きなところもあったんだろう(と思うほどにはなぜ好きだったのかはわからなくなっている)とは思うものの、最初から何かが破綻していた。

 

恋は盲目とはよく言ったものである。

渦中にいる人間は、周囲のこともその人のことも何も見えなくなる。それが、どんどん私の生活範囲を狭めていくことにも、私の自我がコントロール下に置かれていっていることにも、私は気がついていなかった。

さすがに、ん?と思うことがある時は、抵抗して黙って行動していたが胸を刺す罪悪感。どちらにも何も言えない、秘密を一人抱えて黙々と作品制作をする日々。けれど、その中に絶えないパートナーとの衝突。

私を支えていてくれた彼はどこへ?

 

でも、彼は最後に必ず謝るのだ。

小さな子どもが怒られたように、何度も夜眠る布団の中で、「ごめんね」と。

 

別れるぞ!となった日のことは覚えている。

その日は私の大学の卒展で、地元の友達たちが来て、そのうち一人は私の家に泊まることになっていた。母たちが一日早く私の家に来ていて、私はその日も、その人の家にいた。

何がどうなってそうなったかはもうあまり覚えていない。

口論になり、彼がカッターを手に取った。私を傷つけるためではなく、自分を傷つけるために。

今までも何度かあった。あったんかいという話である。でも、誰にも言えなかった。彼に、僕と君との間で起きたことを人に話す必要がある?と言われていた。馬鹿正直な私。視界が狭くなった私。アホがすぎる。

自分を傷つけようとする彼の手を握り、それを止めようとして揉み合いになった。

ベッドに投げられた私は、カッターを握る彼の手に首を絞められ、耳についていたピアスを引っ掛けられて痛かった。

勝てない。どうしても、自分が女性であるかぎり、異性である男の人の力には抗えない。ベッドで寝転ぶ私を見て、彼は急に冷静になったのだろう。

そのあとも、どうしたのかわからない。

怖くなった私は彼の家を飛び出して、自分の家に帰った。扉を開けた母を見た途端、私は子どものように大泣きした。

母は、動揺したように「何なん!どうしたん!」と言っていて、そりゃ二十歳も超えた娘が大泣きして家に帰ってきたらびっくりするわな、と今なら思う。

母が連れてきた足元でおろおろとしている愛犬。事の顛末を話すと母親の顔は真っ青になった。「それはDVやろ」

 

DV。ドメスティックバイオレンス

頭が思考を止めた。そんなことはない、そんなことをする人じゃない。されたのに?

要はもう判断能力を失っていた。その日からしばらく、彼と会う約束はしていなかった。電話がきても、連絡がきても、母が来ているから、や友人が来ているから、と答えた。

 

そして友人たちがやってきた日。

バカな私は耳が痛い理由を忘れていた。恐ろしい話だ。何で痛いんだろうなくらいに思っていて、耳どうかしてる?と友達に聞いたりしていたら、幼馴染(男)が薬局勤めなので見てもらえば?と何もつけていないピアス穴を見せた。

炎症を起こしてる。耳の穴は傷口だから、何か強い力で引っ張ったりとか。どっかひっかけた?そう聞かれて、血の気が引いた。

連絡には出られない。そう言っているのにずっと来るLINE。電話。絶対にあの時のものだ、と思った。

付き合いが長いせいだろう。幼馴染は何かあった?と私の顔を見て察した。パートナーがいることは伝えていた。そのパートナーが、と小さい声で答える私に「え、やばいやん。何でそんなやつと付き合ってんの?」わからなかった。何でなのだろう。

 

それから、自宅に帰って、友人に相談をした。大学が同じわけではないし、ずっと信頼を置いている人だった。私は、こうなってまで、彼が大学で後ろ指を指される存在になることが怖かった。彼の暗示の支配もあった。でももう、限界で全部を伝えると、タイミングよく携帯が鳴った。

「冷静になれてないから言うけど。おかしいで。いますぐ別れた方がいい」

でもどうしたらいいのか、わからなかった。結局、友人が隣に座って、息を潜めて彼女が携帯のメモに打つままの文章を喋った。

何がどうなって収束したのかわからない。とにかく、別れることにはなって、長時間の電話は切れた。次の日の朝、市のホームページからDVについての相談の窓口に電話をしようと友人は言ってくれた。

寝てる間、私は魘されていたらしい。あまりにもかわいそうすぎて、辛かったと友人は言っていた。

 

それからは怒涛だ。

あなたはDVをされています。認識。相手の方がどういう行動に出るかわかりません。認識。一人で住んでいますか?兄がいる。では、お兄さんは相手の方の顔がわかりますか?わかります。ならば、家に来たら必ずお兄さんに出てもらってください。認識。可能であるならば、彼の知らないところに身を隠してください。認識。連絡先の全ては着信拒否、ブロック、ありとあらゆるものの繋がりを捨ててください。認識。

やること、多。

その間、友人はずっと連れ添ってくれていた。私の服は大半が彼の家にあり、これから県外の大学受験を控えていた私に、これを使いなさい、とお金を渡してくれた。涙が出た。恥ずかしさと、どうしようもなさに。

 

兄にはもし彼が来たらいないと言ってくれと伝えた。深刻な話をリビングでずっとしていたから、トイレにも行けなかった兄。その時だけは頼もしく、「任せろ。場合によっては殴ってもいいやつやな?」と言っていた。殴り返される可能性が高いな…と冷静に私は思った。でも、ありがたかった。

 

マブの家に転がり込んだ。事情をある程度説明しておいて、家に行くと、彼女のパートナーと電話をすることになった。彼女のパートナーは、一回り以上年齢が離れている。「子どもに解決できることじゃない。大学の信頼できる先生に連絡して、大人の協力を仰ぎなさい」まだ、私は事の大きさがわかっていなかったのだ思う。

どこか足元が浮いたままというか。担当の教授はつとめて、落ち着いた声で必要なことを聞き出していってくれた。やり取りの内容をデータで送ること。大学内での接触がないように段取りをすること、それからもし構内を歩くとしても友人と必ず動いて、一人にならないようにすること。

そこあたりぐらいから、あ、えらいことになってますね。という感覚になった。

 

彼にされたことについて、記述しなければならなかった。そんな…あるかな…と思っていたら、思っていた以上にあった。肉体的なDVも含め、一番の問題は精神的DVがあることだった。

 

 

行動の制限、人を決めつける言動、抑圧。かと思えば、泣いて謝る。市の窓口の人は言っていた。「こういうのってね、何回も繰り返すのが平均三回はあるんです。何回別れ話になりましたか?」「……三回以上は」ぞっとした。

 

私は私に自信がない。その時は特になかった。だから、私を愛してくれる人がいるなんて信じられなかった。好きになってもらえて、初めて自分が認められたような気がして、私のことをこんなにわかってくれる人がいるんだ!と思っていた。それが、私側からの依存の始まりだったのだ。

 

私は運が良かった。

周囲にアドバイスをしてくれる人や、冷静な判断をしてくれる人たちがいた。その頃お世話になった人たちには感謝をしてもしきれない。

県外の大学院を合格したら、お祝い会を地元の友達たちがしてくれた。幼馴染は「もし落ちてたら、地元戻っておいでって言うつもりやった」いや、男気………嬉しい言葉だった。

 

でも、この日から私には呪いがかかっている。

次に恋をするならという記事を書きながら、でももう、恋をすることはないなという確信がある。もちろんわからない。急に好きな人もなからかもしれないし、それはわからない。

でも、あんなに真っ直ぐではない恋をしてしまった私は、これから人を好きになれるだろうかの思うのだ。

 

悲観的ではなかったはずだった。

でも、必ず彼は私の夢に月に一度か二度登場する。大体が復縁を求められているか、彼に追いかけられる夢。目を覚ますと、身体が硬直している。最悪である。もう忘れてもいいはずなのに、定期的に現れるせいで、忘れようにもどうにも立ち行かない、お前、私の頭の中のドラマに隔週ゲストしてんじゃねーよ!!

 

私だって、誰かを好きになりたい。でも、そういう対象として人を見ることがなくなった。いい人だな、人として好きだな、と思うことはあっても、根本的な「好き」という感情が、どんなものだったか思い出せないし、人から聞く恋の話、人を愛すること、そういったものでしか自分の中に愛の形を留めておくことができない。

私がもし、誰かを好きになった時、それが正しい形をしているのか、自信もない。

人を愛すること、好きになること、それがどれほど美しいことなのか知っている。でも、私にはあの日から呪いがかかってしまった。

思い出しても、その時からこの人のことを好きになったことがない。ずっと蓋をしてきた。自分で呪いをかけてはならないと思って、そんなはずはないと思ってきた。

でも、限界だった。

 

私は悪夢を見る。

私のこれからの人生に、二度と登場しないはずの人が、何度も、何度も。

諦念だ。もうお手上げで、白旗を振っている。誰かを好きになりたい。でも、もうきっと好きにはならない。愛されたとしても、信じられない。

 

呪いが解けることは、あるのだろうか。