やわらかい

日々、いろいろ、ほそぼそ

優しい日の話

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赤い靴、ピンクのストライプのワンピースシャツ。

待ち合わせは14時。駅で私を出迎えてくれたその人は、華やかな色でそこに立っていた。

 

彼女は私の大学時代の先輩にあたる人だ。私は仲の良い先輩のことを名前にちゃんづけで呼んで、敬語もなしに話してしまう。そういうことを許してくれる、私より先に関東にやってきていた先輩。

彼女はとは会うなり柔らかくハグをして、少しだけ背が高い私の後頭部に手を伸ばして「いい髪色やなあ」と頭を撫でてくれた。先輩は三人姉妹の長女で、親戚のような、そういう雰囲気がずっと先輩にはある。頭に触れられるのに、傾けた頭を正して、私と彼女は街を散歩しながら、全てを任せきりにして話をした。

 

茶店を巡ることが好きな先輩は、迷うことなく歩く。

今回は、私が行きたいイベントにもう一人の大学時代の同期を誘っていて、連絡を同じタイミングで寄越してくれた先輩に、一緒にどうですか?と声をかけた。仕事もあるけれど、快諾してくれたことに感謝。私だけが自由に動き回れる。

話を聞いてもらえるのは、嬉しいし、ありがたい。そして申し訳なさもあったりして、自分のことでいっぱいいっぱいだよなあ、と反省したりもする。

 

最近漫画を色々読み始めたという先輩に、ちょうど昨日からハンターハンターに取り憑かれている私は、ハンターハンターの話をしたり、おすすめの漫画の話をしたり(彼女のパートナーがハンターハンターを好きなことが判明して、話したい気持ちになった)、彼女の最近読んだ漫画の話を聞いたりもした。

大学の同期であるギャルも仕事をちょっとしてから合流ということで、喫茶店、カフェをはしごする途中、名前の話になった。私の本名を当たり前に知っている先輩は、私の肩を軽く掴んで笑った。「〇〇って名前、そんな感じじゃないよなあ」私もそう思っている。同意しつつ、でも、それだから呼びたくなるとけらけらと先輩は笑い、ギャルと合流した。

 

全員が関西人。

東京に出てきた田舎者の私は、江東区(こうとうく)と書かれた文字を「えとうく!」と横断歩道の信号を待つ間叫んだ。東京界隈に住む先輩たちである二人から「こうとうくや」と一斉にツッコミが入り、「今ここにいる人の記憶消せませんか?」とまたハンターハンター仕込みの念能力で記憶を抜き取る想像をした私は言った。握ったそれぞれのコーヒーを飲みながら、しばらく公園のベンチでお茶。あれやこれや、これからのこと、今までのこと。数ヶ月の間に起こった出来事が会話の中で行き交った。

 

イベント会場は時間帯による入場制限があり、それでもごった返す人の中で、ありとあらゆる情報が目に飛び込んでくる。目的は、大学の同期が出展していること。でも、財布の紐を硬くしたい私たちは、「頭おかしくなる」「この辺のエリアやばい」「あ〜気が狂う」と言いながらフロアを練り歩いた。

久々に会った同期の彼女は、相変わらずの姿でそこにいて、ちょっと肩が持ち上がっていた。ギャルが腕を掴んだ瞬間、「服、薄っ」と言っており、そこか?と思いつつ、しばらく話をした。彼女がまだ何かを作っていること。それが見れて嬉しかったし、彼女は「インスタグラムになんかすごいいいポスターのシルクの写真上げてませんでした?」と言ってくれた。よく覚えてるなあ。自分の作った作品の話は照れくさいので、さらっと流したけれど、作ってたよ、今も何か作ってる。そう話して、そのフロアをぐるりと回りながら三人で「何か作りたくなるね」と話した。

心地よい疲れがあって、でも服を買いに出て、服を買うつもりだったけど結局何がいいのかわからないみたいな、そういう感じにも似たものがあって、最終的に入口地点に近いところで薄いZINEとステッカーを買った。後悔なし!

 

先輩はすっかり眠くなっていて、おなかすいたー、と眠いーの狭間で、ふんにゃりとゆっくりと帰り道を一緒に進んだ。

もうすぐ駅に着こうか。そのくらいで、今後のために色々を節約している赤い靴を履いた先輩が「まだ楽しいから帰りたくない。寂しい。デニーズに行こう」と言ってくれた。私とギャルに異論はなし。デニーズでご飯を食べて、また懐かしい話、あれやこれやを話して、お店を出よう!となった。

 

渋谷はハロウィン。

今日はすごいことになってるらしいよと話しながら、駅へと向かった。大変だなーと言いながら、なんでもない会話のラリーがテンポよく続いた。駅は、先輩とギャルが同じ方向。私は違う路線。またね、元気でね。関西に帰るまでにまた、と手を振って別れた。

 

先輩の綺麗な赤い靴、ギャルの品のいい豹柄のストール。私は黄緑のスウェットトレーナー。

イベント会場で会った、ほんの少し大人になって柔らかさが増したような、同期。

 

てんでばらばらで、でもこうして結びついている人。大切にすべきものは、きっとこういうものなのだ。疲れたね、よく寝れそう。ギャルは「一周回って悪夢見そう」などと言っており、そんなことあるか?と先輩と笑った。

 

優しい日、優しい人。

自分のために、自分が人を誘って何かへと足を向けられたことに安堵して、私は家に着いた。忘れたくないな、この日を。日記を書いてるんだし、書き留めておくべき。いい日が続いているから、次はまた何か困ったことが起きそうだな、とかそんなことを考えてしまう。

 

でも、起きたら起きたでいいや。私は布団で大の字になっている。