やわらかい

日々、いろいろ、ほそぼそ

先輩と後輩の関係の話

f:id:maruiinochi:20221124151202p:image

 

今週末、久しぶりに関西に帰ってのサークルの同窓会のようなものがある。

 

大学生の頃、面白い先輩とお菓子につられて入ったサークルである。地域密着型のサークルで、大きなイベントは年に二回、特に夏のイベントが大きなものだった。

その当時から、先輩たちというのはOB、OGとして多く参加していて卒業してしまった先輩たちも、その時期になるとサークルの活動に参加するような、そういう場所だった。

大人がたくさんいるよ〜と思っていたが、自分も今週末にはその一人として見られるのか、と思って、変なの〜となっている。

 

今になって思うこととして、私は美術大学に通っていたわけだが、かなり特殊な場所であったことをこの年齢になって痛感する。それは別に嫌な感じではなくて、ただ、割合として見た時に少数派であったということで、その世界しか知らないのだ、と実感する感じに近い。

もちろん座学もあった。

けれど、必要最低限であったし、大学院にいたっては履修登録はあるものの、必須の科目は担当教員の授業を取れば、あとは作品を提出すれば終わり、みたいな、ほぼ一日はフリーの時間で、制作時間に当てられることが当たり前だった。

 

不思議なもので、高校を卒業して大学に入ると、妙に息がしやすかった。

自分が好きなものや興味のあるもの、そういった趣味嗜好、はたまた「作る」という共通項を前提として集まっている人たちの中にいると、そればかり考えていても誰にも責められることもなくて、自分が自分にテメェ…しっかりしろや…と思うことはあっても、何かしらの安心感があったものだ。

そして集まっている人たちは多種多様であった。

 

サークルの思い出は大変だった記憶と、しょうもないことをたくさんしたなという記憶がすごいある。

まだ校内で火器厳禁!!と厳しく言われることも少なく、許可なくバーベキューや七輪で食べ物を焼いて食べたり、大学構内で水風船を大量に作りそれで鬼ごっこをしたり、(これに関しては総務課からそのあと注意された)お酒を出していけない学祭で、ひっそりとお酒を出すお店を出展したり、とにかく楽しいこともめいっぱいした。

 

サークルでは、とあるお祭りに夏に参加するのが恒例行事で、これが大変なのだが(肉体労働なので、今もし参加することになったら私は死ぬと思う)、お祭りの初日に私はいつもみんなに内緒でやっていたことがあった。

 

夜のお祭りのそれは、開始の時間までに、地域の点検に回る。

地域の人に挨拶をしたり、お店の人に声をかけたり。そういった段取りの最中、大体必ず初日に来てくれる先輩がいた。私はそのOBの先輩と同級生の助手さんにお世話になっており、親しいこともあって、その先輩になんとなく親近感があって好きだった。細々とした声で喋るオタクの先輩(若くしてハゲていた)は、どこか兄に似ていたので、安心感があった。一方的で失礼な安心感である。

私はその先輩が点検時の初日に来る、その日。

お祭りが始まるまでの時間に、必ずあるおねだりをこっそりとしていた。

 

それは、車で来ている先輩に甘いものを食べに連れて行ってもらうというものだ。

 

点検に行ってきまーすと、意気揚々と先輩の車に乗り込み、やる気満々ですよ!みたいな顔をしてこっそり一人、もしくはたまたまそこらへんにいた後輩や同期を連れて冷たいものを食べに行くのだ。

 

知らない間に、年に一回しか会わないその先輩との何となく始まった恒例行事。

初めての時は、先輩が「このままなんかアイスでも食べに行く?」と学生が分散されて乗る車の中で提案されたことがきっかけだった。

え、行く!仲の良くなった先輩に大体タメ口になってしまう私は、先輩の誘いを断るはずもなかった。アイス!奢りだ!

 

美味しいジェラート屋さんに連れて行ってくれた。その時はたまたま同期が同じ車に乗っていて、先輩は「ダブルはダメです。シングルなら好きなものを頼んでいい」と、とても正直な申告をしてくれて、イェ〜イとアイスを店内で食べて、集合場所に遅れて帰った。「みんなには内緒やで」ウース!私と友人はいい返事をしたはず。

 

夏の暑い日、甘いもの、冷たいものを食べたくて学生は差し入れをとにかく楽しみにしている。大人たちの差し入れを今か今かと待ち望んでいるハイエナなのである。

翌年も、その先輩が来て私はひそっと近付いて「先輩、今日も暑くないですか?」と声を掛けた。去年の味を占めている。最悪の後輩である。先輩は「今年はコンビニかなー」と言って、また適当な人間を見繕ってコンビニで、キンキンに冷えたフローズンを奢ってもらった。

 

学生最後の年は、よく覚えている。

その年は、後輩二人といつものように地域の南側から点検してきま〜すと、向かうのにその先輩を混ぜた。私がめちゃくちゃにせがんだからだ。

私の大学の後輩ではないのだけれど、そのお祭りに例年参加している地域の男の子がいて、その子は私が甘いものをたかる先輩と仲が良かったので、私、後輩、男の子、先輩の四人編成となった。

 

私と先輩の頭の中には、「点検」「挨拶回り」の目的は抜け落ちている。その日は、お祭りが始まるまであまり時間がなくて、途中のお茶屋さんに目をつけていた。

「先輩、今年はここどうすか」

「割引効きそうやな」

お祭りに協力しているのだ。案の定、割引してもらえた。後輩二人は「これ大丈夫です!?」

「バレたらやばくない?」と言い、外を駆けていくサークルの他のメンバーを見つけるたびに体を小さくした。

そして、パフェが一人一つずつ、お腹の中へと消えて行った。先輩は眼鏡に薄いヒゲ、そして若いけれど頭の頭皮がその…ツルツルとしていたので、パフェとのアンバランスさがおもしろくて、私は写真を撮りまくった。失礼な後輩である。

門外不出にしろよ、と注意されながら、背徳感を感じて食べるパフェは最高だった。

 

結局、割引があるとは言え、四人分となると金額はバカにならない。一応私はそのメンバーの中では先輩に次いで年長者だったので、先輩よりは少ないけれどお金を支払った。

 

年に一度会うか、会わないかのその人。

でも、多分お互いに年に一回くらいしか会わないから、その日のことをやけに覚えているのかもしれない。約束したわけじゃないが、顔を見合わせると「甘くて冷たいものを食べに行こう」という合図がなんとなく、通じ合っていた。

今週末、その人はきっとその集まりには来ない、のだと思う。でも、もし来ていたら、またひっそり何か奢ってもらおうかな。などと、後輩からしてみれば大先輩になった私は、その人にとってはまだ後輩なのだから〜〜と開き直って想像している。

 

こうして、先輩に甘えることを知った私は後輩、もしくは年下、そういった人とご飯に行く、お茶をする、となると、会う回数があまり少ない人に関しては奢ります!という気持ちができている。歳が離れていても、友達認定をしていると割り勘でオナシャス!となるが、自分がしてもらって嬉しかったことを、ちゃんと人にできる人でありたいと思っている。

 

しかし、この前それに失敗した。

カードでいけるでしょ!と後輩の展示を見に行ったついでに、お茶しているところにお邪魔をしたら、カードが使えなくて、あまつ現金も足らず、「ごめん、お金貸してください……」と、先輩面目丸潰れ案件である。恥。

彼女たちは会いに来てくれただけでうれしいですよ!と言ってくれたし、その気持ちもすごくわかるのだけれど、財布の中身はきちんと確認しておくべきだなと思った一件であった。

 

先輩、後輩。不思議な関係の話である。