やわらかい

日々、いろいろ、ほそぼそ

髪を切ることの話

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なだらかな日々が続いている。

最後に美容院に行ったのは先月の頭のこと。今までずっとワンレングスだったので、思い切って前髪作ってみようかな?と思い、幼馴染ののくまちゃんにおすすめの髪型送ってーと連絡をして、髪を切りに行った。

 

小中高の頃、私には髪型の選択肢がなかった。

というのも、私の肌が弱いこともあり、母が肌に髪が擦れることで肌荒れを気にして、好きな髪型にすることをあまり許してくれなかった。まあ、美容院ってそもそもお金もかかるし、小学生の頃は母に髪を切ってもらうことが常であった。

しかし、素人。出来上がる髪型なんてしれたもので、私は常に前髪ぱっつんおかっぱ頭になり、初めての美容院も結局母のオーダーが通されて、いつもとなんら変わりのない、ぱっつん、おかっぱに悔しさのあまり家に帰って号泣したことを覚えている。

 

髪を染める。それ自体にも母は反対で、高校卒業の時に染めたれー!と思った時も、勝手に自分でせえ!という感じで、むらむらの髪の毛ができあがった。けれど、私は満足した。自由だなと思えて。

大学生に入ると、美術大学であることもあって、色んな髪色、髪型をしている人がいて、先輩の通う美容院を紹介してもらった。

そこの美容師さんは常にピンク色の髪色をしていて、好きなんだよね〜と、覚えてもらいやすいしね、と、芋っこ丸出しの私に色んな髪型や髪色を提案してくれた。

好きにさせてくれるから助かる〜!と言われて、おかっぱから解き放たれた開放感で私は結構色々な髪型に挑戦することになる。

 

美容院への通い方は人それぞれだと思う。

安いクーポンのために毎回お店を変えるという友人もいるし、他にも毎回同じだと逆に気を遣って話をしなくちゃいけないという人もいる。

私は、どちらかというと、かかりつけの病院と同じで、自分の趣味嗜好をわかってくれている方が気が楽で、どこに引っ越しても同じ場所に通い続けるタイプである。

 

大学生の時にお世話になったその美容師さんとは、休みの日に飲みに行ったりする間柄で、今もインスタグラムで繋がっている。たまに髪を切ったことをストーリーなどに上げると、いいね!をくれたりする。不思議な関係だ。

 

そのあと、土地を移動した私は、また友人からお店を紹介してもらって、かかりつけ美容師を見つけることになる。

前回までは同姓の美容師さんだったのだが、この時は異性で、うまく話せるもんかね…と思いつつ、いざ通い始めると、その人は常にローなテンションなのだが、美容師としての仕事に誇りを持っていて、かつ職人、のような気質の人だった。

その美容院への予約は電話でしていたのだが、大体電話をかけると「あ、丸いさん?いついつ空いてる。カラーとカットでいい?ん。じゃあ待ってます」と、一分もかからないうちに電話が毎回終わる。高速…と電話を切るたびに思っていた。

 

私の心配などどこへやら。

お互いにマンガ好きなこともあり、髪を切っている最中に家の方からドラゴンボールの画集を持ってきてくれて、それを見ながら髪を切ったり、ハンターハンターのキャラ誰が好き?という話で盛り上がったり、職人気質のその人の、美容師としてのこだわりの話を聞いたり。

カットやカラーで気に入らない部分があると、「お金取らないからやり直しさせて」や、「もうちょっとこうしたいから、してもいい?」など、これぐらいから美容師さんに全てお任せ、お好きにどうぞ態勢の私は、どうぞどうぞという感じだった。

 

私は自分の容姿にそれなりのコンプレックスがあるのだが、もし唯一好きなところを無理やり挙げろと言われたら、頭の形と答える。

それも、この美容師のお兄さんが褒めてくれたからだ。「頭、ちいせえ〜マジで形綺麗。触るの怖いくらい。あと髪質もいい。何しても大丈夫。時間はかかるけど」そんなに!?プロの人にしかわからないそういうことってあるんだな。頭の形だけは自信を持っていこう、と決意した瞬間だった。

台湾に旅行に行くことがあったのだが、その時どうしても髪を切ってから台湾に行きたくて、関西から飛び立つ予定だったため、地元に帰るついでに髪を切った。

飛び込みの美容院はやけにシャレオツでビビり散らかしたのだが、隣に例の幼馴染のくまちゃんがいてくれたのでなんとか乗り越えた。

 

それはさておき、すみません、他所で切ります…と思いながら、その後いつもの美容院に行くと、すぐにバレた。名探偵コナン

「こうじゃない、こうじゃないんだよな〜!丸いさんの頭とか髪型の癖って、こういう、これじゃないんだよな〜!!」

頭を触られながら、二度と他店などに行くまいと心に誓った瞬間であった。

 

そしてまた、土地を移動して今。

近所の良さげな美容院を探していて、はたと目に止まったのは美容師さんが一人でやっている可愛いお店だった。お客さんも一人。一対一になる。初めてのパターンだ。人見知りする方でもないし、長く通えるならその方が良い。遠くに髪を切りに行くのは嫌だった。

二人のお子さんがいる美容師のお姉さんは、明るく、ユニークな人で髪を切っている間、何でもない話をずっとしていた。覚えていることも覚えていないこともあったりするけれど、毎日誰かの話を聞いている人たちだ。すごいなーと思う。

大体こんな感じにしたいです。イメージを伝えて、あとはいつものように毎回好きにしてください、と言う。最初こそはお姉さんは戸惑っていたけれど、だんだん慣れてきて「ここ、こうしてもいいです?」と提案をしてくれるようになった。楽しく好きにしてください。

実際、自分のやってみたい髪型と似合う髪型は違う。頭の形とか、癖とか。色素とか。そう思うと、プロの人に似合うものを選んでもらうのが一番よくて、もちろん自分の理想はあるけれど、そこに近づく形でうまくやってくれるのは間違いない。なので、私は好きにしてください、と大体言ってしまうのだ。

 

一度だけ、お子さんに会った。

自宅の一階がお店になっているそこの、庭でパートナーの人と二人の姉妹が遊んでいた。

まだ下のお子さんは親のしている仕事が何かを理解していないようで、「何してたのー!?」と聞かれて笑ってしまった。髪を切ってもらったんだよ〜と返すと、不思議そうな顔をして、あのねー!と別の話が始まった。お母さんはねー、すごい仕事してるよ。いつか知った時、どういうことを思うのだろう、ぼんやりとそんなことを思った。

そして先月、多分最後だなと思いつつ、近況報告をして実家に帰るんですという話をしたり、今までにない髪型になることを大丈夫かなあと心配したりしながら髪を切ってもらった。

 

できましたよ!と、美容院お決まりの二面の鏡で見せてもらった自分、思わず拍手をして、大丈夫だった〜と気に入った。スタンプカードがちょうどいっぱいになって、でも次はあるかどうかはわからない、と予約の話になった。

きっと、私たちが選ぶ側であるかぎり、こうしてこの人たちは人と出会ったり、別れたりを繰り返しているんだろう。なんとなく、お姉さんのあっけらかんとしたその様子に、寂しさを覚えた。

最後に、彼女は私の顔を見て、「いいですね!似合ってます!私、こういうことがしたくて美容師やってるんです」と笑っていた。

そうだなあ、そうなんだろうな。

 

 

見慣れない髪型。

私にとって多分、毎回少しだけ美容師さんを困らせてしまう「好きにしてください」という言葉は、美容院で髪を切ることが手っ取り早い「私の見たことのない私」に出会える期待から出てくる言葉なのだと思う。

 

いつも同じ髪型でもいい。同じ髪色でもいい。それもそれで、いい。でも、私は髪を切ることが好きで、その理由はきっと、これに尽きるのだ。髪を切ったあと、新しい自分を誰かに見て欲しくなる。それは、大体の小さな変身が成功した証拠で、私はどこにでも行けるような気持ちになる。

青っぽい色だった髪の色は抜け落ちた。次はどんな色にしようか、どんな髪型にしようか。どんな人に出会えるだろうか。

 

この歳になって、一番明るい髪色の私は、次の髪を切る日を楽しみにしている。